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耐震クラスSを正しく理解し設備機器を地震から守る設計の全体像

耐震クラスSを正しく理解し設備機器を地震から守る設計の全体像

耐震クラスSは、建築設備の耐震を語るうえで避けて通れない基準です。けれど実務では「クラスS=とにかく最強固定」と誤解されたり、逆に“種別”や“支持間隔”だけが先に決まってしまい、重要機器なのに肝心の機能維持が担保されないケースも起こります。設備は建物本体と違い、機器・配管・配線が一体で動くため、どこか一箇所でも弱いと地震後に止まってしまいます。この記事では、耐震クラスSの位置づけから、設計で使う水平震度の考え方、指針2014を前提にした計画手順、施工・検査の勘所、さらにBIMでの前倒し検証まで、現場で迷わないための全体像を整理します。

耐震クラスSとは何かを設備目線で整理する

耐震クラスSは、「設備機器をどの程度の地震でも機能させたいか」を、設計と施工で同じ物差しにそろえるための基準です。言い換えると、クラスが決まると“必要な固定の強さ・支持の考え方・確認項目”が連鎖して決まります。ここが曖昧なままだと、設計は通っても現場で納まり優先になり、地震時に転倒・落下・配管破断といった事故につながりかねません。

耐震クラスと耐震種別の違いを混同しない

クラスは「求める性能レベル(重要度)」、種別は「具体的な支持・固定の仕様(やり方)」と捉えると整理しやすいです。先にクラスを決め、次に機器や系統ごとに適切な種別へ落とし込む順番が基本です。逆に、種別だけ先に決めると、重要機器なのに固定が不足する、または過剰設計でコストと工期が膨らむ、というズレが起きます。

クラスSが求められる建物と設備機器の典型例

クラスSは、防災拠点や止められない機能を支える設備で求められやすい考え方です。非常用発電、受変電、重要系統の通信・制御、消火や給排水の中枢など、止まると人命や復旧計画に直結する機器が代表例です。建物用途だけでなく、「その設備が止まったときの影響」で判断するのが現実的です。

現場で起きがちな誤解と確認ポイント

誤解が多いのは「クラスS=全部を最強固定にする」発想です。実際は、重要度の高い機器・系統から優先して合理的に強化します。確認は、①機器の重要度、②設置階や支持地盤条件、③アンカーや架台の仕様、④吊り材・ブレースの方向とピッチ、⑤機器直近の配管・配線の逃げと可とう、の順で押さえると漏れが減ります。

設計で使う地震動と水平震度の考え方をつかむ

設備の耐震設計でつまずきやすいのは、「震度」と「設計に使う数値」が別物だという点です。ニュースで聞く震度は体感や被害の尺度ですが、設計では機器にかかる力を計算できる形に置き換える必要があります。ここを理解すると、クラスSで求められる固定が“感覚”ではなく“根拠”で語れるようになり、説明もしやすくなります。

震度と加速度と水平震度の関係をざっくり掴む

同じ震度でも、地盤や建物の揺れ方で機器に伝わる加速度は変わります。そこで設計では、機器重量に対してどれくらいの水平力が作用するかを「水平震度(概念的には係数)」として扱い、水平力=重量×係数の形で見積もります。重要なのは、震度の数字をそのまま設計に当てはめないことです。

設計用水平震度KHが決まる要素を整理する

KHは、建物の階や機器の設置条件、機器の重要度、支持方法などの要素で変わります。上層階ほど揺れが増幅しやすく、同じ機器でも要求が上がるのが一般的です。また、架台上の機器か、吊り支持か、床置きかで、必要なブレースやアンカーの考え方が変わります。クラスSでは「重要度が高い前提」で、これらの条件を一つずつ確定させるのが近道です。

局部震度法が効くケースと注意点

設備機器は局所的に共振したり、支持点が偏って力が集中したりします。局部震度法は、こうした“設備特有の揺れ”を見落としにくくする考え方として役立ちます。一方で、入力条件の置き方やモデル化が雑だと、数値だけ立派で実態とズレる危険もあります。設計の早い段階で、支持条件(固定・可動・遊び)と質量分布を現物に近づけることが、クラスSの品質を左右します。

指針2014を軸に耐震設計の流れを組み立てる

設備の耐震は、思いつきで補強を足すほど失敗します。根拠となる指針(2014年版)を“設計の手順書”として扱い、要件整理→対象抽出→計画→詳細→検証の順で積み上げるのが最短です。特に耐震クラスSは、後から強化しようとすると支持点の確保やルート変更が発生し、工期とコストが跳ねがちです。最初に枠組みを決め、関係者で共通理解を作ることが品質を左右します。

適用範囲と適用除外を最初に切り分ける

まず「どの設備・配管・配線が耐震検討の対象か」を洗い出します。ここが曖昧だと、重要機器の周辺だけ抜け落ちたり、逆に不要な箇所まで過剰に拘束して不具合を招きます。系統図・機器表・配置図を突合し、対象外の条件(短尺・柔構造・既定の免震要素など)も同時に整理すると、設計が一気に前へ進みます。

機器の重要度と設置階で要求レベルが変わる理由

同じ機器でも、用途(止まったら困る度合い)と設置場所(揺れの増幅)で要求が変わります。クラスSでは「機能維持」が主眼になるため、重要系統を先に特定し、上層階・屋上・中間階で揺れ方が変わる前提で支持計画を分けるのが合理的です。ここを一括りにすると、弱点が残るか、過剰固定で施工性が落ちます。

支持・固定の基本(アンカー、架台、吊り材)

設計の要は、力の流れを途切れさせないことです。床置き機器はアンカーとベース架台で水平力を確実に受け、吊り物はブレースの方向とピッチで横揺れを止めます。さらに、配管・配線は機器近傍で無理な拘束を避け、可とう部や逃げを確保して破断を防ぎます。最後に、図面上の仕様が現場で再現できる寸法・納まりになっているかをチェックし、クラスSの意図を“施工できる形”に落とし込みます。

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耐震クラスSの選定を失敗しないチェックリスト

耐震クラスSは「重要そうだから」と感覚で決めると、説明責任もコスト管理も崩れます。判断の軸をチェックリスト化し、用途・影響・設置条件を順に潰すと、関係者の合意が取りやすくなります。特に設備は、機器単体ではなく“系統として止まらないこと”が価値になるため、部分最適ではなく影響範囲で評価するのがポイントです。

建物の用途とBCPからクラスを逆算する

最初に「地震後に何を継続したいか」を明文化します。防災拠点、医療・福祉、情報・金融、製造ラインなどは、停止が人命・復旧・社会機能に直結しやすく、クラスSの検討優先度が上がります。次に、BCP上の優先機能(電源、給水、排水、通信、消火、空調の一部など)を列挙し、重要機器とバックアップ機器を分けます。ここまで整理できると、クラスSを「必要な範囲に、必要な強さで」適用でき、過不足が減ります。

電気設備・配管・ダクトで見落としやすい要点

落とし穴は“機器は固定したのに、つながるものが壊れる”パターンです。受変電や分電盤を強固にしても、立ち上がり配管・配線が引きちぎれれば機能は止まります。配管は継手やフランジ部の応力集中、吊り支持は横振れ、ダクトは偏荷重と長尺部の座屈が要注意です。機器の直近では、可とう継手や余長、支持の切り替え位置を設計段階で決め、地震時に「動くべき所が動き、守るべき所が守られる」状態を作ります。

ケーブルラックの扱いで差が出るポイント

ケーブルラックは軽く見られがちですが、長尺で連続し、電源・通信の生命線になりやすい要素です。クラスSを目指すなら、ラック自体の支持間隔だけでなく、曲がり部・立上り部・機器接続部の弱点を先に潰します。具体的には、ブレースの方向を揃えて力の逃げ道を作る、連結部の剛性不足を補う、貫通部周辺で干渉しない納まりを確保する、といった“ディテールの勝負”になります。最後に、施工後の増設が多い設備だからこそ、将来のケーブル追加で偏荷重にならない運用ルールまで含めておくと、クラスSの性能を長く維持できます。

施工と検査で性能を落とさないための段取り

耐震クラスSは、計算や図面が正しくても、施工で“少し省略”された瞬間に性能が崩れます。固定金物の向き違い、ブレースの未設置、アンカーの埋込み不足、締付け不足などは、地震時に一気に弱点になります。だからこそ、設計意図を施工に翻訳し、検査で再現性を担保する段取りが重要です。ポイントは「施工図の時点で迷いを消し、現場では確認をルーチン化する」ことです。

施工図段階での干渉回避と納まり最適化

施工図では、耐震支持を“後から足す部材”として扱わないのが鉄則です。ブレースの取り合いが梁や配管と干渉すると、現場判断で撤去・変更されやすくなります。機器周辺は、メンテスペースと耐震支持の両立が必要なので、支持点の位置、あと施工アンカーの可否、下地補強の範囲まで描き込みます。配管・配線のルートも、固定点と可動点をセットで設計し、動きを殺しすぎない納まりに整えます。

現場検査で見るべき固定・ピッチ・締付け

検査は「見た目が付いているか」ではなく「設計どおりの性能が出るか」で確認します。代表的には、アンカー径・本数・埋込み長さ・端あき、架台の剛性と溶接品質、吊り材のピッチ、ブレースの方向(X/Y両方向の確保)、締付けトルクと緩み止め、連結部の抜け止めです。さらに、機器直近の可とう部が潰れていないか、貫通部で擦れていないかも合わせて見ます。チェック項目を事前に表にしておくと、検査の抜けが減り、是正も早く回ります。

改修・増設時に性能を担保する考え方

設備は運用中に増設が入りやすく、ここでクラスSの性能が落ちがちです。増設時は、荷重増と重心変化で支持条件が変わるため、「元の固定があるから大丈夫」と判断しないのが基本です。ケーブル追加でラックが偏荷重になる、機器更新で重量が増える、配管の分岐追加で吊り点が不足する、といった変化を前提に、変更管理のルール(事前承認・再計算・検査)を決めます。設計図書に“クラスSで守るべき系統”を明記しておけば、改修時の判断がぶれにくくなり、性能を長期にわたり維持できます。

BIMで耐震クラスSの検討を早めて手戻りを減らす

耐震クラスSは、支持部材が増えるほど干渉・納まり・施工手順の問題が表に出ます。そこでBIMを使うと、図面が固まる前に「入るか」「組めるか」「後から触れるか」を可視化でき、手戻りを大きく減らせます。特に設備は、構造体・建築仕上げ・他設備との取り合いが複雑なので、耐震支持を3Dで先に確定させる価値が高いです。重要なのは、BIMを“見栄えの良いモデル”で終わらせず、耐震検討に必要な情報まで運用することです。

干渉チェックと支持計画の早期すり合わせ

BIMの強みは、ブレースや架台、吊り材を含めて干渉チェックできる点です。2Dだと見落としやすい梁下の取り合い、点検口との干渉、配管・ダクトの交差部などを早期に潰せます。耐震クラスSでは支持点が増えるため、構造側の下地や補強範囲の合意も早めに必要です。モデル上で支持点候補を共有し、「ここにアンカーを打てる」「ここは下地補強が必要」を先に決めると、現場での変更が激減します。

数量・工程と連動させて耐震検証を回す

支持金物は、数量と施工手順に直結します。BIMで支持材を部材として管理すると、概算数量が早期に出せるため、過剰設計の抑制やコストの説明がしやすくなります。さらに工程(4D)と結び付ければ、先行して固定すべき箇所、後施工で対応する箇所を整理でき、施工中に“付けたくても付けられない”状況を避けられます。クラスSは後戻りコストが大きいので、早い段階で検証サイクルを回すほど効果が出ます。

モデルに残すべき属性情報と運用ルール

耐震検討に使うなら、機器・ラック・配管に「重要度(クラス)」「重量」「設置階」「支持条件」「固定仕様」の属性を残すのが有効です。これがあると、重要系統だけフィルタして確認でき、改修時も“守るべき範囲”が一目で分かります。運用ルールとしては、誰が属性を入力し、いつ確定し、変更時にどう更新するかを決めることが肝心です。ルールがないとモデルと現物が乖離し、クラスSの根拠として使えなくなります。

耐震クラスSで押さえるべき要点まとめ

耐震クラスSは、①重要機能を止めない範囲を定義し、②震度ではなく設計用の水平力で考え、③支持・固定と配管配線の“つながり”まで含めて計画し、④施工図と検査で再現性を担保し、⑤改修・増設でも性能が落ちない運用に落とし込むことが要点です。BIMは、その一連の流れを前倒しし、干渉や抜けを減らすための道具として使うと効果が最大化します。

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著者について

Nobuo Nakatsu

多業種で経営・営業を歴任し、国際的なマネジメント経験を持つ住宅コーディネーター。
現在はSOSHIN HOME CRAFTにて建築分野の専門性を高め、性能・デザイン・価格の最適バランスを追求。
建築・古民家・ファイナンスの資格を活かし、確かな知識と実践力で理想の住まいづくりを提案しています。

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